Сетевая библиотекаСетевая библиотека
ドラゴンの運命 モーガン ライス 魔術師の環 第一巻 #3 「魔術師の環には、直ちに人気を博す要素がすべて揃っている。陰謀、敵の裏をかく策略、ミステリー、勇敢な騎士たち、深まっていく人間関係、失恋、偽りと裏切り。すべての年齢層を満足させ、何時間でも読書の楽しみが続く。ファンタジーの読者すべての蔵書としてお勧めの一冊。」 - ブックス・アンド・ムービー・レビューズ、ロベルト・マットス ドラゴンの運命(魔術師の環 第三巻)は、 ソアが戦士になるための壮大な旅、火の海を越え、ドラゴンの棲むミスト島に向かう旅路へと読者をいざなう。世界中のエリート戦士たちが集まる過酷な地で、ソアの力と技は鍛えられ、磨かれていく。想像を絶する敵に共に立ち向かう仲間との友情も深まる。だが、考えも及ばぬ怪物たちに直面したとき、百日間は単なる訓練から生死を分かつ事態へと変わる。誰もが生き残れる訳ではない。その過程で、ソアが見る夢、アルゴンとの不思議な邂逅は引き続きソアを悩ませる。自分が何者なのか、母親は誰なのか、自分の力の源が何なのか突き止めなければ、という思いに駆り立てられる。どんな運命が待ち受けているのか?リングでは状況がますます悪化していく。ケンドリックが投獄され、グウェンドリンは彼を救えるかどうか、ガレスを失脚させてリングを救えるかどうかが自分にかかっていると悟る。兄のゴドフリーと共に父の暗殺者につながる手がかりを探すうち、共通の目的を持つ二人の絆は強まるが、グウェンドリンは捜査に深入りし過ぎたために身に危険が迫っていることに気づく。彼女は、手に負えない状況に陥ってしまったのかも知れない。ガレスは運命の剣を振るってみせるつもりでいる。王であるとはどういうことかを知り、権力の乱用から酒に溺れるようになる。そして被害妄想から情け容赦ない統治を行う。 暗殺者の包囲網が狭まる頃、マクラウドによるリング内での攻勢が活発になってくる。宮廷は一層不安定な状態に置かれる。グウェンドリンはソアと共に過ごし、愛を育てるため、彼の帰還を待ち焦がれる。だが強い勢力が二人の間に立ちはだかり、その日がやってくるかは定かでない。ソアは百日間を生き延びられるだろうか?宮廷は崩壊してしまうのか?マッギルの暗殺者は見つかるか?グウェンドリンはソアと結ばれるだろうか?そして、ソアは自分の運命の秘密を知ることができるのだろうか?物語の世界構築と人物設定に磨きをかけた「ドラゴンの運命」は、壮大な物語。友達、恋人、ライバル、求婚者、騎士とドラゴン、そして陰謀、策略、成年、失恋、欺瞞、野心と裏切りを描く。栄誉、勇気、運命そして魔術の物語である。忘れることのできない世界へ読者を引き込む、すべての人を魅了するファンタジー。「冒頭から読者の注意を引いて離さない・・・テンポが速く、始めからアクション満載のすごい冒険がこの物語のストーリー。退屈な瞬間など全くない。」 - パラノーマル・ロマンス・ギルド(「変身」評)「アクション、ロマンス、アドベンチャー、そしてサスペンスがぎっしり詰まっている。このストーリーに触れたら、もう一度恋に落ちる。」 - vampirebooksite. com (「変身」評) ドラゴンの運命 (魔術師の環 第三巻) モーガン・ライス モーガン・ライス モーガン・ライスはいずれもベストセラーとなった、ヤング・アダルトシリーズ「ヴァンパイア・ジャーナル」(1-11巻・続刊)、世紀末後を描いたスリラーシリーズ「サバイバル・トリロジー」(1-2巻・続刊)、叙事詩的ファンタジーシリーズ「魔術師の環」(1-13巻・続刊)の著者です。 モーガンの作品はオーディオブックおよび書籍でお楽しみいただけます。現在、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、日本語、中国語、スウェーデン語、オランダ語、トルコ語、ハンガリー語、チェコ語およびスロバキア語に翻訳され、他の言語版も刊行予定です。 読者からのお便りを待っています。メーリングリストへの登録や無料アプリのダウンロードが行え、無料書籍やプレゼント、ファン限定の最新情報が満載のウェブサイト、 www.morganricebooks.com (http://www.morganricebooks.com) をぜひご覧下さい。Facebook、Twitterのご利用もお待ちしています! モーガン・ライス賞賛の声 「魔術師の環には、直ちに人気を博す要素がすべて揃っている。陰謀、敵の裏をかく策略、ミステリー、勇敢な騎士たち、深まっていく人間関係、失恋、いつわりと裏切り。すべての年齢層を満足させ、何時間でも読書の楽しみが続く。ファンタジーの読者すべての蔵書としておすすめの一冊。」 - ブックス・アンド・ムービー・レビューズ、ロベルト・マットス 「ライスは設定を単純に描き出す次元を超えた描写で最初から読者をストーリーに引きずり込む・・・とてもよい出来栄えで、一気に読めてしまう。」 - ブラック・ラグーン・レビューズ(「変身」評) 「若い読者にぴったりのストーリー。モーガン・ライスは興味を引くひねりをうまく利かせていて、新鮮でユニーク。シリーズは一人の少女を中心に描かれる・・・それもひどくとっぴな! 読みやすくて、どんどん先に進む・・・PG作品。」 - ザ・ロマンス・レビューズ(「変身」評) 「冒頭から読者の注意を引いて離さない・・・テンポが速く、始めからアクション満載のすごい冒険がこの物語のストーリー。退屈な瞬間など全くない。」 - パラノーマル・ロマンス・ギルド(「変身」評) 「アクション、ロマンス、アドベンチャー、そしてサスペンスがぎっしり詰まっている。このストーリーに触れたら、もう一度恋に落ちる。」 - vampirebooksite.com (「変身」評) 「プロットが素晴らしく、特に夜でも閉じることができなくなるタイプの本。最後までわからない劇的な結末で、次に何が起こるか知りたくてすぐに続編が買いたくなるはず。」 - ザ・ダラス・エグザミナー(「恋愛」評) 「トワイライトやヴァンパイア・ダイアリーズに匹敵し、最後のページまで読んでしまいたいと思わせる本!アドベンチャー、恋愛、そして吸血鬼にはまっているなら、この本はおあつらえ向きだ!」 - Vampirebooksite.com ( 「変身」評) 「モーガン・ライスは、才能あふれるストーリーテラーであることをまたもや証明してみせた・・・ヴァンパイアやファンタジー・ジャンルの若いファンのほか、あらゆる読者に訴えかける作品。最後までわからない、思いがけない結末にショックを受けるだろう。」 - ザ・ロマンス・レビューズ(「恋愛」評) モーガン・ライスの本 魔術師の環 英雄たちの探求(第一巻) 王の行進(第二巻) ドラゴンの運命(第三巻) 名誉の叫び(第四巻) 栄光の誓い(第五巻) 勇者の進撃(第六巻) 剣の儀式(第七巻) 武器の授与(第八巻) 呪文の空(第九巻) 盾の海(第十巻) 鋼鉄の支配(第十一巻) 炎の大地(第十二巻) 女王の君臨(第十三巻) 兄弟の誓い(第十四巻) 生けるものの夢(第十五巻) 騎士の戦い(第十六巻) 天賦の武器(第十七巻) サバイバル・トリロジー アリーナ1:スレーブランナー(第一巻) アリーナ2(第二巻) ヴァンパイア・ジャーナル 変身(第一巻) 恋愛(第二巻) 背信(第三巻) 運命(第四巻) 欲望(第五巻) 婚約(第六巻) 誓約(第七巻) 発見(第八巻) 復活(第九巻) 渇望(第十巻) 宿命(第十一巻) Copyright © 2013 by Morgan Rice All rights reserved. 1976年米国著作権法で認められている場合を除き、本書のいかなる部分も、著者の事前の許可を得ることなく複製、配布、配信すること、またはデータベースもしくは情報検索システムに保管することは、その形式、方法のいかんを問わず禁じられています。 本電子書籍は個人的な使用を目的とした場合に限り使用を許諾します。本電子書籍の他者への再販売または譲渡を禁じます。他者との共有を希望される場合は、使用者ごとにご購入いただきます。本書を購入せずに閲覧した場合、または個人的な使用目的に限定した購入でない場合、本書を返却のうえ、別途ご購入ください。著作尊重にご協力をお願いいたします。 本書はフィクションであり、作中の名称、登場人物、社名、団体名、地名、出来事および事件は著者の想像または創作です。実在の人物・故人とは一切関係ありません。 カバー画像の著作権はBob Orsilloに属し、Shutterstock.comの許可を得て使用しています。 目次 第一章 (#u4c227fc8-a9ba-5de1-a104-8cd1ebf0c663) 第二章 (#u8b79ddb6-b702-58b0-8679-10386e113600) 第三章 (#uac593201-2a39-57aa-bbb9-be4a7cf19dcb) 第四章 (#ua5832a2f-82f9-55eb-914e-0024ca906e5e) 第五章 (#u80868275-017e-57fb-a8fc-dcc879c55185) 第六章 (#u44f01cdc-3193-5ea4-b2de-000dedd29991) 第七章 (#u8218df1f-943d-5209-9247-597c27ef9510) 第八章 (#u70e60890-0726-5388-95c1-d5d1bb498c6d) 第九章 (#u856a1ecc-b6e7-5379-8d40-086c46b593d2) 第十章 (#litres_trial_promo) 第十一章 (#litres_trial_promo) 第十二章 (#litres_trial_promo) 第十三章 (#litres_trial_promo) 第十四章 (#litres_trial_promo) 第十五章 (#litres_trial_promo) 第十六章 (#litres_trial_promo) 第十七章 (#litres_trial_promo) 第十八章 (#litres_trial_promo) 第十九章 (#litres_trial_promo) 第ニ十章 (#litres_trial_promo) 第二十一章 (#litres_trial_promo) 第二十二章 (#litres_trial_promo) 第二十三章 (#litres_trial_promo) 第二十四章 (#litres_trial_promo) 第二十五章 (#litres_trial_promo) 第二十六章 (#litres_trial_promo) 第二十七章 (#litres_trial_promo) 第二十八章 (#litres_trial_promo) 第二十九章 (#litres_trial_promo) 第三十章 (#litres_trial_promo) 第三十一章 (#litres_trial_promo) 「竜の逆鱗に触れてはならない。」 —ウィリアム・シェークスピア リア王 第一章 マクラウド王は数百人の部下を従えて、山中を疾走する馬に必死にしがみついて坂を駆け下り、高原を横切ってリングのマッギル側へと入った。背後に手を伸ばし、高く上げた鞭を引いては馬の皮膚を強く打った。王の馬に催促は必要なかったが、彼はいずれにしても鞭を使いたがった。動物を痛めつけるのを楽しんでいたのだ。 マクラウドは目の前の景色を、よだれが出そうなほどうらやましく思った。牧歌的なマッギルの村。男たちは武器も持たず野に出て、女たちは、夏の陽気に服らしい服もまとわず家で亜麻糸を紡いでいた。家の戸は開け放たれ、鶏は自由に歩き回っている。大鍋が煮え立ち、夕食の用意ができていた。略奪し、女たちを辱める - マクラウドはどんな狼藉を働こうかと考え、ほくそ笑んだ。 流される血の味を味わえそうなほどに。 彼らは走り続け、馬が雷鳴のようなとどろきを響かせて、田園地帯へと広がっていく。やがてそれに気づいた者があった。村の番人である。兵士と呼ぶにはお粗末な十代の少年で、槍を手に立ち、一団が近づいてくる音に振り向いたのだった。マクラウドは、彼が目を白くしているのを見つめ、その顔に恐怖と狼狽の色を見た。この退屈な駐屯地では、少年は恐らく戦など一度も目にしたことがないのだろう。嘆かわしいほど、何の準備もできていなかった。 マクラウドは時間を無駄にしなかった。戦いではいつもそうだが、最初の獲物が必要だった。部下たちはそれを彼に差し出すことをよく心得ていた。 彼は馬が金切声を上げるまでもう一度鞭を当てると、スピードを上げ、他の者を追い越して先頭に走り出た。先祖伝来の重い鉄槍を高々と挙げ、のけぞって槍を放った。 いつもながらその狙いは正しかった。少年が振り向く間もなく、槍は彼の背中に命中して射通し、音を立てて少年を木にくぎ付けにした。血が背中から吹き出し、それだけでマクラウドは満足だった。 マクラウドは短く喜びの声を上げた。その間も、皆はこのマッギルの選りすぐりの土地で、茎が風にたなびいて馬の腿に届き、村の門へと続く黄色いトウモロコシの間を縫って突撃を続けた。美しすぎる日だった。これからもたらそうとしている破壊と比べ、美しすぎるほどの絵。 一団は警護の固められていない村の門を抜けて進んだ。ここは高原に近く、リングの外側に位置するだけあって呑気なものだ。考えればわかるだろうに。マクラウドは軽蔑をこめてそう思いながら斧を振り上げ、この場所を示す木の標識を切り落とした。地名は彼が直に変えさせるだろう。 部下が村に入り、マクラウドの周囲に、この辺鄙な土地の女子供や老人たち、そしてたまたま家に居合わせた者たちの叫び声があふれた。そうしたつきのない者は恐らく数百人はいただろう。マクラウドは彼ら全員を懲らしめるつもりだった。一人の女性に特に目を付け、斧を頭上高く振り上げた。彼に背を向け、安全な家に駆け戻ろうとしていた。あり得ないことだ。 斧が、マクラウドが狙ったとおり女のふくらはぎに当たり、女は叫び声を上げて倒れた。彼は殺そうとは思っていなかった。傷つけたかっただけだ。いずれにせよ、後で楽しむために生かしておきたかった。よく選んだものだ。自然なままの、長いブロンドの髪と細い腰、18にもなっていないだろう。この女は彼のものだ。この娘に飽きたら、殺すのはその時だ。いや、そうしないかも知れない。恐らく奴隷として生かしておくだろう。 彼は嬉しそうに叫びながら女のそばまで寄り、半歩進んだところで馬から飛び降りた。そして女の上に乗り、地面に組み敷いた。砂利の上を女ともども転がり、地面の感触を感じ、生きている実感を味わいながらほくそ笑んだ。 生きる意味がまたできた。 第二章 ケンドリックは嵐の中、武器庫に立っていた。周りには数十名の仲間がいる。皆鍛え上げられたシルバー騎士団のメンバーだ。彼は穏やかな目でダーロックを見た。王の衛兵隊長で、不運な使命を帯びて派遣されたのだ。ダーロックは何を考えていたのだろう?彼は本当に、武器庫にやって来て王族で最も愛されているケンドリックを、武装した仲間たちの目の前で逮捕できるとでも思ったのだろうか? 他の者たちが黙ってそうさせるとでも? シルバー騎士団が誓うケンドリックへの忠誠を、ダーロックはかなり甘くみていた。彼が正当な告訴事由をもって逮捕しに来たとしても – この場合そうではないが - 自分が連れ去られるのを仲間たちが許すとはケンドリックには思えなかった。彼らは生涯、そして死ぬまで忠誠を誓っているのだ。それがシルバー騎士団の信条だ。他の仲間が脅威にさらされたならば、自分も同じようにしただろう。彼らは生涯、ずっと共に訓練を受け、共に戦ってきたのだ。 ケンドリックは重苦しい沈黙に緊張感を感じ取っていた。騎士たちは、ほんの12名の衛兵たちに向かって引き寄せるように武器を手にしている 。衛兵たちは後ずさりし、この時間を気詰りに感じているようだった。誰かがひとたび剣を抜けば皆殺しになることがわかっていたに違いない。賢明にも、誰もそうしようとはしなかった。皆そこに立ち、指揮官であるダーロックの命令を待った。 ダーロックは緊張した様子で、つばを飲みこんだ。自分の持つ逮捕理由には見込みがないと悟った。 「連れてきた衛兵の数が足りないようだな」ケンドリックは穏やかに言った。「シルバーの騎士100人に12人の衛兵が立ち向かうのでは、負ける理由となってしまう」 青ざめていたダーロックのほおが赤らみ、彼は咳払いをした。 「ケンドリックさま、我々は皆同じ王国に仕えております。あなたと戦いたくはない。おっしゃるとおりです。この戦いに我々が勝つ見込みはない。命令を下していただければ、この場を離れ、王の元へ戻ります」 「ですが、ガレス様が別の、更に多くの者を送り込むだけだということはお分かりだと思います。そしてこれがどのような事態を引き起こすかも。あなた方はそうした者たちを皆殺すでしょう。しかし同じ国の者の血をその手で流すことを本当にお望みでしょうか?内戦を起こしたいとお考えですか?あなたの側にしても、部下の方々の命が危険にさらされ、また誰もかれもを殺すことになります。そんなことが彼らにふさわしいでしょうか?」 ケンドリックはそのことに思いを巡らし、見つめ返した。ダーロックの言うことには一理ある。自分のために部下に傷を負わせたくはない。いかなる殺戮からも彼らを守りたいと思った。それによって自分がどうなろうとも。自分の弟のガレスがいかにひどい人間、統治者であったとしても、ケンドリックは内戦を望んではいなかった—少なくとも自分のせいで起こってほしくなかった。他の方法がある。真っ向から立ち向かうことが最も効果的であるとは限らないことを彼は学んでいた。 ケンドリックは手を伸ばし、友人アトメの剣をゆっくりと下に置いて、他のシルバーの騎士たちのほうに向きなおった。自分を守ろうとしてくれたことへの感謝の気持ちでいっぱいだった。 「我がシルバーの仲間たちよ」彼は言った。「皆の加勢のおかげで謙虚な気持ちになれた。それは決して無駄ではない。皆よくわかってくれていると思うが、私は先代の王である父の死になんら関与していない。こうした事の成り行きから誰かは既に見当がついているが、真犯人を見つけたときには、私がまず最初に復讐する。私は濡れ衣を着せられてはいるが、内戦の引き金は引きたくない。だから、武器は手にとらないでいてほしい。私のことは穏やかに扱ってもらうようにする。リングの者どうしで戦うべきではないからだ。正義が存在するなら、真実はやがて白日の下にさらされる。そして私は皆のもとにすぐに返されるだろう」 シルバーの者たちはゆっくりと、不本意ながら武器を下ろし、ケンドリックはダーロックに向き直った。そして前に進み出て、ダーロックと共にドアに向かって歩き出した。自分を取り囲む王の衛兵の間を、ケンドリックは誇り高く背筋を伸ばして歩いて行った。ダーロックはケンドリックに手錠をかけようともしなかった。それは恐らく敬意または恐怖から、あるいは、ダーロックにはケンドリックが無実であるとわかっていたからかも知れない。ケンドリックは自ら新しい牢獄へと向かうだろうが、そう簡単には折れないだろう。どうにかして汚名をすすぎ、釈放させ、そして父の暗殺者を手打ちにするであろう。それが自分の弟であっても。 第三章 グウェンドリンは弟のゴドフリーと共に城の内部に立ち、ステッフェンが手をねじり、動いているのを見ていた。彼は変わり者だった。奇形で猫背であるというだけでなく、神経質なエネルギーに満ちていた。目は動きを止めることがなく、まるで罪悪感にさいなまれているかのように両手を組んでいた。一方の足からもう片方の足へと移動し、低い声でハミングをしながら同じ場所で揺れていた。長年にわたるここでの孤立した生活が彼を風変わりな者にしたのだ、とグウェンは理解した。 グウェンは、自分の父に起きたことを彼がついに明らかにしてくれるのでは、と期待して待っていた。だが、数秒から数分が経ち、ステッフェンの眉に汗がにじみ始め、その動きが激しさを増しても、何も起こらなかった。彼のハミングで時折破られる、ずっしりと重い沈黙が続くだけだった。 夏の日に燃えさかる炉の火を間近にして、グウェン自身も汗ばみ始めた。早くこれを終わらせてしまいたかった。この場所から出て二度と戻りたくなかった。グウェンはステッフェンを細かく観察して彼の表情を解読し、心の内を理解しようとした。彼は二人に何か話すと約束しておきながら、沈黙していた。こうして観察していると、考えなおしているようにも見えた。明らかに、彼は恐れを抱いている。何か隠しているのだ。やがて、ステッフェンが咳払いをした。 目を合わせ、そして床を見ながら「あの夜、何かが落とし樋に落ちてきたのは認めますよ」と話し始めた。「それが何だったかはわからねえ。金属だった。その夜便器を外に運び出して、川に何かが落ちる音を聞いた。何か変わったものでしたよ。ですからね」両手をねじり、咳払いを何度もしながら言った。「それが何であっても、川に流されちまったんでさあ。」 「それは確かか?」ゴドフリーがせっついた。 ステッフェンは勢いよく頷いた。 グウェンとゴドフリーが目を見合わせた。 「それを少しでも見たかい?」ゴドフリーが問いただす。 ステッフェンは首を振った。 「短剣のことを言っていたでしょう。見てもいないのに短剣だとどうしてわかったの?」グウェンが尋ねた。彼が嘘をついていると確信したが、それがなぜかはわからなかった。 ステッフェンは咳払いをして、 「そうじゃないかと思ったから短剣だって申しましたんでさあ」と答えた。「小さい、金属のものでしたからね。他に何がありますかい?」 「便器の底は調べたのか?」ゴドフリーが聞く。「捨てた後に。まだ便器の底にあるかも知れない」 ステッフェンは首を振った。 「底は調べましたさ。いつもそうしますからね。何もありませんでしたよ。空でした。それが何だったとしても、もう流されちまったんですよ。浮いて流れていくのを見ましたから」 「金属なら、どうしたら浮くの?」グウェンが詰問する。 ステッフェンが咳払いをし、肩をすくめた。 「川ってのは謎が多くてね」彼が答える。「流れが強いんですよ」 グウェンは疑いの目をゴドフリーと交わした。ゴドフリーの表情から、彼もステッフェンを信じていないことが見てとれた。 グウェンはますますいらいらしてきた。また途方に暮れてもいた。ほんの少し前までステッフェンは自分たちに約束どおり何もかも話そうとしていた。だが今は、突然気が変わったかのように見える。 グウェンはこの男は何か隠していると感づき、近づいて睨みつけた。一番手強そうな顔をしてみせたが、その時、父の強靭さが自分の中に注ぎ込まれるような気がした。彼の知っていることが何であれ、それを明らかにするのだと心に決めていた。それが父の暗殺者を見つけるのに役立つのであれば尚更だ。 「あなた、嘘をついているわね」鉄のように冷たい声で彼女は言った。そこに込められた力に自分でも驚いた。「王族に偽証したらどんな罰が待っているか知っている?」 ステッフェンは両手をねじり、その場で跳び上がりそうになった。一瞬彼女のほうを見上げたかと思うと、すぐに目をそらした。 「すみません」と彼は言った。「申し訳ない。お願いだ。これ以上何も話すことはないんですよ」 「前に私たちに知っていることを話せば牢屋に入らなくて済むか、って聞いたわね」グウェンが言う。「でも何も話さなかった。何も話すことがないなら、なぜその質問をしたの?」 ステッフェンは唇をなめ、床を見下ろした。 「あた、あたしゃ・・・」彼は言いかけてやめ、咳払いをした。「心配だったんでさあ。落とし樋で物が落ちてきたことを報告しなかったら厄介なことになるんじゃあないかって。それだけですよ。すんませんでした。それが何だったかはわかりません。なくなっちまいましたから」 グウェンは目を細めた。彼をじっと見つめ、この変わり者の本性を見極めようとした。 「あなたの親方には一体何があったの?」見逃すまいとばかりに彼女は聞いた。「行方不明になっているって聞いているけど。そしてあなたが何か関係しているとも」 ステッフェンは何度も首を振った。 「いなくなったんですよ」ステッフェンが答えた。「それしか知りません。すみませんが、お役に立てるようなことは何も知らないんですよ」 突然、部屋の向こう側から大きなシューという音が聞こえ、皆振り返って、汚物が落とし樋に落ちて大きな便器の中に音を立てて着地するのを見た。 ステッフェンは振り向くと部屋を横切って便器まで急いで走って行った。脇に立ち、上の階の部屋からの汚物で満たされているのを見ていた。 グウェンがゴドフリーの方を見ると、彼もこちらを見ていた。同じように途方に暮れた顔付きだった。 「何を隠しているにせよ」グウェンは言った。「それを明かすつもりはなさそうだわ」 「牢屋に入れることもできる。」ゴドフリーが言う。「それでしゃべらせることができるかも知れない」 グウェンは首を振った。 「それはないと思う。この男の場合は。明らかに、ひどく怯えているわ。親方と関係があると思う。何かに悩まされているのは明らかだけど、それが父上の死に関係があるとは思えない。私たちの助けになることを何か知っているようだけど、追いつめたら口を閉ざしてしまう気がする。」 「なら、どうしたら良い?」ゴドフリーが聞いた。 グウェンは止まって考えていた。子供のころ、嘘をついたのが見つかった友達のことを思い出していた。両親が本当のことを言うよう詰め寄ったが、本人は決してそうしなかった。自分から進んですべてを明らかにしたのは、誰もが彼女を一人にしてあげるようになった数週間後のことだった。グウェンは同じエネルギーがステッフェンから出ているのを感じ取っていた。彼を追いつめたら頑なになってしまうこと、自分から出てくるスペースが彼に必要なことも。 「時間をあげましょう」グウェンは言った。「そして他を探すのよ。何を見つけられるかやってみて、もっとわかってから彼のところに戻るの。 彼は口を開くと思うわ。まだ準備ができていないだけ」 グウェンは振り返って部屋の向こう側のステッフェンを見た。 大鍋を埋めていく汚物をチェックしている。グウェンは彼が父の暗殺者へと導いてくれるのを確信していた。それがどのようになるかはわからなかった。彼の心の奥底にどのような秘密が潜んでいるのだろうか、と考えた。 不思議な人だわ、グウェンは思った。本当に変わっていた。 第四章 ソアは、目、鼻、口を覆い、辺り一面に注ぎ込む水をまばたきで払いながら、息をしようとしていた。船に滑り込んだ後、やっとの思いで木の手すりをつかみ、水が容赦なく握りしめる手を引き離そうとするのに抗い、必死にしがみついていた。体中の筋肉が震え、あとどれくらい持ちこたえられるかわからなかった。 周囲では仲間たちも同じように、ありったけのものにしがみついていた。水が船から叩き落とそうとするなか、なんとか踏みとどまっていた。 耳をつんざくような大きな音がし、数フィート先もよく見えなかった。夏の日だというのに雨は冷たく、ソアの体は冷え切って水を振り落すこともできなかった。コルクが立ちはだかり、まるで雨の壁も通さないかのように腰に手を当て、にらみつけながら自分の周囲に向かって吠えている。 「座席に戻れ!」コルクが叫んだ。「漕ぐんだ!」 コルク自身も席に着き漕ぎ始めた。間もなく少年たちがデッキ中を滑ったり、這ったりしながら、席に向かった。ソアが手を離してデッキを横切っていく時、心臓が激しく打った。ソアは滑っては転び、デッキに強く叩きつけられた。シャツの中でクローンが哀れな声を上げていた。 後はなんとか這ってすぐに席にたどり着いた。 「しっかりと結び付けておけ!」コルクが叫ぶ。 ソアが見下ろすと、結び目のついたロープがベンチの下にあった。何のためにあるものかやっとわかった。手を伸ばして手首の周りに結び、席とオールに自分を固定させた。 これが役に立った。もう滑らない。すぐに漕げるようになった。 周りでも少年たちが皆漕ぎ始めた。リースはソアの前の席だった。船が進んでいる感覚があり、数分もすると、雨の壁が前方で明るくなった。 漕げば漕ぐほど、このおかしな雨のせいで皮膚が焼けるようで、体中の筋肉が痛む。やっと雨の音が静まり始め、頭に降り注ぐ雨の量が減ったのが感じられた。その後すぐに、太陽が照る場所に出た。 ソアは辺りを見回し、ショックを受けた。すっかり晴れ上がって、明るい。これほどおかしなことは経験したことがない。船の半分は晴れて太陽が輝く空の下にあり、もう半分は雨の壁を通過し終えようというところで雨が激しく降り注いでいる。 やがて船全体が澄みわたった青と黄色の空の下に入り、あたたかな太陽の光が皆の上に注いだ。雨の壁があっという間に消えて静けさが訪れ、仲間たちは驚きに互いの顔を見合わせていた。まるでカーテンを通り過ぎて別世界に入ったかのようだった。 「休め!」コルクが叫んだ。 ソアの周りの少年たちが皆一斉にうめき声を上げ、あえぎながら休んだ。ソアも体中の筋肉の震えを感じながら同じようにし、休憩に感謝した。船が新たな海域に入ったのに合わせ、倒れこんであえぎ、痛む筋肉を休めようとした。 ソアはようやく回復し、辺りを見回した。水面を見ると、色が変わっているのに気付いた。今は淡く輝く赤色になっている。違う海域に入ったのだ。 「ドラゴンの海だ」隣にいたリースも驚いて見下ろしながら言った。 「犠牲者の血で赤く染まったって言われてるんだ」 ソアはその色を見つめた。ところどころ泡が立っている。離れたところで奇妙な獣が瞬間的に顔を出してはまた潜っていく。どれもあまり長い間水面にとどまらないため、よく見ることができない。だが、運にまかせて、もっと近くまで乗り出して見たいとも思わなかった。 ソアはすべてを理解し、混乱していた。雨の壁のこちら側は何もかもが異質だ。大気にはわずかに赤い霧まであり、水面上を低く覆っている。水平線を見ると、数十もの小さな島々が飛び石のように広がっている。 風がいくらか強くなってきた。コルクが進みでて叫ぶ。 「帆を揚げよ!」 ソアは周りの少年たちと共に迅速に動いた。ロープをつかみ、風をつかまえられるように引き上げる。帆が風を孕んだ。ソアは自分たちの下で船が今までにないスピードで前進していくのを感じ、一行は島を目指した。船が大きくうねる波に揺さぶられ、唐突に押し上げられては、静かに上下した。 ソアはへさきに向かって行き、手すりに寄りかかって遠くを見渡した。リースが隣にやって来て、オコナーも反対側に立った。ソアは二人と並んで立ち、島々がどんどん近づいてくるのを見ていた。長いこと黙ったままそうしていた。ソアは湿ったそよ風を満喫しながら体を休めた。 やがて、自分たちがある島を特に目指していることにソアは気づいた。どんどん大きく見えてくる。そこが目的地であることがわかるにつれ、ソアは寒気を覚えた。 「ミスト島、霧の島だ」リースが畏れを持ってそう言った。 ソアは目を見張り、じっくり観察した。その形に焦点が合ってくる。岩が多くごつごつした不毛の土地だ。それぞれの方角に長く細く何マイルも広がって、馬蹄型をしている。岸では大波が砕け、ここからでもその音が聞こえる。そして大岩にぶつかっては巨大な泡状のしぶきを上げていた。大岩の向こうには小さな一握りの土地があり、崖がまっすぐ空に向かってそびえ立っていた。ソアには船が安全に着岸できるかどうかわからなかった。 この場所の奇怪さに加え、赤い霧が島全体に立ち込めて、露が太陽にきらめき、不気味な雰囲気を醸し出していた。ソアはこの場所に非人間的な、この世のものではない何かを感じ取っていた。 「ここは数百万年も前から存在していたらしい。」オコナーが付け加えて言う。「リングより古い。王国よりも古いんだ」 「ドラゴンの地だ」リースの隣にやって来たエルデンが言う。 ソアが見ている間に、突然二番目の太陽が沈んだ。あっという間に太陽が輝く昼間から日暮れ時へと変わり、空は赤紫色に染まった。信じられなかった。これほど太陽が素早い動きを見せるのを見たことがない。この地で、他にも他と異なるものは一体何なのだろうと思った。 「この島にドラゴンが棲んでいるのかい?」ソアが尋ねた。 エルデンが首を振る。 「いや、近くに棲んでいるとは聞いている。赤い霧がドラゴンの息から作られると言われている。隣の島でドラゴンが夜に息をし、それが風で運ばれて日中島を覆うらしい」 ソアは突然物音を聞いた。それは始めは雷のような低いとどろきに聞こえた。長く、大きい音で船が揺れた。シャツの中に居たクローンが頭を引っ込め、哀れっぽい声を出した。 他の者たちは皆くるりと向きを変えた。ソアも振り返り、見渡した。水平線上のどこかに炎の輪郭がかすかに見えるような気がした。沈む太陽を舐めるような炎がやがて黒煙を残して消えた。まるで小さな火山が噴火したかのようだった。 「ドラゴンだ」リースが言った。「僕たちは今、奴の縄張りに入ったんだ」 ソアは息を呑み、考えた。 「どうして僕たちは安全でいられるんだ?」オコナーが聞いた 「どこにいても安全ではない」声が響き渡った。 ソアが振り返ると、コルクがそこに立っていた。腰に手を当て、皆の肩越しに水平線を見ている。 「あそこが百日間の場所だ。死の危険と日々を共にする。これは訓練ではない。ドラゴンがすぐ近くに生息し、その攻撃を止めることはできない。自分の島にある宝を守っているために攻撃をしかける可能性は低い。ドラゴンは自分の宝を置いたまま離れることを好まない。しかし君たちはその遠吠えを聞き、夜間にはその炎を目にするだろう。そして、どうかしてドラゴンの怒りを買うことがあれば、何が起こるかわからない」 ソアは再び低い鳴動を聞き、水平線上の炎が噴き出すのを見た。島に近づいていく間、波がそこで砕けるのを見つめていた。険しい崖、岩の壁を見上げ、どうやっててっぺんの平地にたどり着くのだろうかと考えた。 「船が着岸する場所が見当たりません。」ソアが言った。 「それは簡単なことだ」コルクがすぐに言い返す。 「ではどうやって島に上陸するのですか?」オコナーが尋ねる。 コルクが微笑んで見下ろした。不吉な笑みである。 「泳げば良いのだ」コルクが言った。 一瞬、ソアはコルクがふざけているのかと思った。だが彼の顔の表情からそうではないと悟った。ソアは息を呑んだ。 「泳ぐ?」リースが信じられない様子で繰り返した。 「あの海域には生き物がうようよしているじゃないか!」エルデンが叫ぶ。 「あんなのは可愛いものだ」コルクが続けて言う。「ここの流れは油断できないぞ。渦には飲み込まれる。波にはギザギザの岩に叩きつけられる。水は熱く、岩をやり過ごせても、陸にたどり着くためあの崖を登る方法を見つけねばならん。それも海の生き物がまず君らを捕まえなければだが。さあ、新しい住処へようこそ」 ソアは手すりの端で、眼下の泡立つ海を見下ろしながら皆と立ちすくんだ。そこでは水が生き物のように渦巻き、流れが一秒ごとに強くなっていく。船を揺らし、バランスを保つのがますます難しくなってきている。足下で波が狂ったように泡立ち、明るい赤色は地獄の血そのものを含んでいるかのようだ。最悪なのは、ソアが見たところでは、別の海の怪物が数フィートごとに顔を出していることだ。水面に上がってきては長い歯で噛みつくようにしてはまた潜っていく。 岸から遠く離れているのに、船が突然碇を降ろした。ソアは息を呑んだ。島を縁どる大岩を見上げた。自分たちが、ここからあそこまでどうやってたどり着いたものかと考えた。波の砕ける音は毎秒大きくなっていき、話す時は相手に聞こえるよう大声を出さなければならない。 見る見るうちに、幾つものボートが海に降ろされ、その後、船から30ヤードは優にあるだろう、遠く離れた場所へ指揮官たちにより動かされた。これは簡単じゃない。そこに行くまで泳いでいかなくてはならない。 そう思っただけでソアは胃が締め付けられた。 「跳べ!」コルクが大声で号令をかける。 初めて、ソアは恐怖を感じた。それはリージョンのメンバーや戦士としてふさわしくないことなのでは、と思った。戦士はいついかなる時も恐れてはならないとわかっていたが、今恐怖を感じていることは認めざるを得なかった。それが嫌で、そうでないことを願ったが、事実だった。 だが、周りを見て他の少年たちの恐怖におののく顔が目に入ると、ソアは少し気が楽になった。皆が手すりの近くで海面を見つめ、恐怖に立ち尽くしている。一人の少年は特に恐怖のあまり震えていた。盾を使った訓練の日に、恐れから競技場を走らされたあの少年だ。 コルクはそれに気付いたに違いない。船上を横切って少年のほうへやって来た。風で髪が吹き上げられても気にする様子もない。しかめっ面で、自然をも征服するかのような勢いだ。 「跳ぶんだ!」コルクは叫んだ。 「いやだ!」少年が答えた。「できません!絶対にするものか!泳げないんです!家に帰してください!」 コルクは少年のほうに向かって真っすぐ歩いて行き、少年が手すりから離れようとした時、シャツの背中をつかみ、床から高く持ち上げた。 「ならば泳ぎを覚えるがよい!」コルクはそう怒鳴ると、船の端から少年を放った。ソアには信じられなかった。 少年は叫びながら宙を飛んで行き、15フィートは先の泡立つ海に落ちた。しぶきを上げて着水し、水面に浮かんだ。ばたばたと体を動かし、息つぎをしようと喘いでいる。 「助けて!」少年は叫んだ。 「リージョンの最初の規則は?」コルクは水面の少年には目もくれず、船上の他の少年たちのほうを向き大声で聞いた。 ソアには正しい答えがおぼろげにわかっていたが、下で溺れかけている少年のほうに気が行ってしまい、答えられない。 「助けが必要なリージョンのメンバーを救うこと!」エルデンが叫ぶように言った。 「彼には助けが必要か?」コルクが少年を指さしながら聞く。 少年は腕を上げ、水面で浮いたり沈んだりしている。他の少年たちはデッキに立ち、恐怖で飛び込めないまま見つめている。 その瞬間、ソアに予想外のことが起きた。溺れかけている少年に注意を向けているうち、他のことがすべてどうでもよくなってしまった。 ソアはもはや自分のことなど考えていなかった。自分が死ぬかもしれないということは考えもしなかった。海、怪物、海流・・・それらすべてが消えていった。今考えられるのは人を救うことだけだ。 ソアは幅広の樫の手すりに登って膝を曲げると、考える間もなく宙高く跳び上がり、足下の泡立つ海に頭から飛び込んだ。 第五章 ガレスは大広間の父の王座に座り、滑らかな木製の肘掛に沿って手をさすりながら目の前の光景を見ていた。数千人もの臣民が室内を埋め尽くしていた。一生に一度しかない行事、ガレスが運命の剣を振りかざすことができるかどうか、選ばれし者かどうかを見とどけに、リング内のあらゆる場所から人が集まったのだ。国民は、父君の若かりし頃以来剣を持ち上げる儀式を見る機会がなかったため、誰もこのチャンスを逃したくなかった。興奮が巷に渦巻いていた。 ガレスは期待しながらもぼう然としていた。人がますます溢れ、室内が膨れ上がるのを見るにつけ、父の顧問団が正しかったのではないか、と思い始めた。剣の儀式を大広間で行い、一般に公開するのはあまりよい考えではなかったのではないかと。彼らは非公開の小さな剣の間で行うよう求めた。失敗した場合、それを目撃する者がわずかしかいないという理由だった。だがガレスは父の家来を信用しなかった。父の古い側近よりも自分の運命に信を置いていた。そしてもし成功した場合、自分の手柄を、自分が選ばれし者であることを王国中の者に見てほしかった。その瞬間をその場で記録にとどめたかったのだ。彼の運命が決まる瞬間を。 ガレスは優雅な物腰で広間に入場した。王冠と王衣を身に着け、笏を振りながら 、顧問たちに付き添われて進んだ。彼は、父でなく自分が真の王であること、真のマッギルであることを皆に知らしめたかった。予想どおり、ここが自分の城で、人々が自分の臣民であるとガレスが実感するまでにそれほどかからなかった。彼は皆にもそう実感してもらい、権力を示すのを多くの者に見てもらいたかった。今日から皆ははっきりと、自分が唯一の、本物の王であると知ることになるだろう。 だが、ガレスは今この王座に一人座り、部屋の中央にある、剣を置く鉄の突起が天井から差す陽光に照らされるのを見ながら、それほど確信が持てなくなっていた。自分がしようとしていることの重みが彼にのしかかっていた。もう後戻りのできない段階だ。もし失敗したら?ガレスはその考えを頭から払いのけようとした。 広間の向こう側の大きい扉が、きしむ音を立てながら開いた。興奮気味の「しーっ!」という声とともに、広間は期待に満ちた静寂に包まれた。12名の宮廷で最も屈強な者たちが、間に剣を掲げながら入場した。その重さに苦労している。片側6名ずつの男たちが、剣の安置場所まで一歩ずつ行進していく。 剣が近づくにつれ、ガレスの心臓は鼓動が早くなった。一瞬、自信が揺らいだ。今まで見たことがないほど大柄の、この12名の男たちに持ち上げることができないのなら、自分にできる見込みなどあるのだろうか?だが、ガレスはそのことは考えないようにした。剣は運命に関係しているのであって、権力ではないのだ。そして、ここにいること、マッギル家の第一子であること、王であることが自分の運命なのだと自分にいい聞かせた。会衆の中にアルゴンの姿を探した。どういうわけか、急に彼の助言を無性に仰ぎたくなった。その助けが最も必要な時だった。なぜか、他の者は思い浮かばなかった。だが、アルゴンの姿はなかった。 やがて12名の男たちは広間の中央まで進み、太陽の光が差し込む場所に剣を運んで、鉄製の突起状の台に安置した。金属の音が響き、室内にこだまするなか剣が置かれ、静寂が広がった。 会衆は自然と分かれて、ガレスが剣を持ち上げるために進めるよう道を開けた。 ガレスは王座からゆっくりと立ち上がり、この瞬間と、自分が集めている注目とを味わった。全員の目が自分に注がれているのを感じた。王国の誰もが完全に、これほどの注意を向けて自分を見つめ、自分の動きのすべてを見ようとする、このような時は二度とやって来ないだろうとわかっていた。子供の頃から、この瞬間を心の中で何度も思い描き、そして今その時がやってきた。ゆっくりと時が流れて欲しいと思った。 王座の階段を一段ずつゆっくり味わいながら下った。足下の真紅の絨毯を、その柔らかさを感じながら、一筋の太陽の光に、剣に近づいて行った。それは夢の中を歩いているようだった。自分が自分でないような気がした。自分の中に、以前夢の中でこの絨毯を何度も歩き、剣を何百万回も持ち上げたことのある自分があった。それが一層、自分が剣を持ち上げるよう運命づけられていると、運命に向かって歩いているのだと感じさせた。 どう事が運ぶか、ガレスは頭の中で思い描いた。堂々と進み出て片手を伸ばし、臣民が乗りだして見守る中、素早く劇的に剣を振り上げ、頭上にかざして見せる。皆、息を呑み、ひれ伏して彼を選ばれし者であると宣言する。歴代のマッギルの王のうち最も重要で、永遠に支配することを運命づけられた者として。その光景に皆が歓喜の涙を流すのだ。そして彼を畏れ、服従する。これを見るために生きてきたことを神に感謝し、彼こそ神であるとあがめる。 ガレスは剣にあと数フィートというところまで近づき、体の中で震えを感じていた。太陽の光の中に入ると、何度も目にしたことのある剣でありながら、その美しさにはっとさせられた。これほど近づくことは許されなかったため、驚きを禁じ得なかった。強烈だった。誰にも判別できない素材で造られた、長い輝く刃の剣は、ガレスもこれ以上華麗なものを見たことがないほどの柄を持っていた。 美しい、絹のような布に包まれて、あらゆる種類の宝石が散りばめられ、端にはハヤブサの紋章を施してある。歩み寄ってかがみ込むと、強力なエネルギーが発散されているのを感じた。鼓動しているようにさえ見えて、ガレスは息もできないほどだった。間もなく、それを手にして頭上高くに掲げることになる。太陽の光の中、誰からも見えるように。 大いなる者、ガレスとして。 彼は手を伸ばし、その柄に右手を置いた。そして宝石の一つ一つを、輪郭を感じ取りながら、ゆっくりと指を添わせ、握った。痺れる感覚を覚えた。強烈なエネルギーが手のひらから腕、そして全身へと広がった。経験したことのない感覚だった。これこそガレスのためにある瞬間、人生最高の時だ。 ガレスは一か八かやってみるというようなことはしなかった。もう片方の手も下ろし、柄にかけた。目を閉じ、浅く息をした。 神の意にかなうなら、どうかこの剣を振り上げさせてください。私に王であるしるしをお与えください。私が統治する者として運命づけられていることをお示しください。 ガレスは沈黙したまま祈った。祈りへの応え、しるし、完璧な瞬間を待った。だが数秒が、10秒がまるまる過ぎ、王国全体が見守るなか、何も起きることがなかった。 そして突然、父のこちらを睨み返している顔が見えた。 ガレスは恐怖に目を見開き、頭からその像を消し去りたかった。心臓が高鳴り、恐ろしい前兆のような気がした。 今しかない。 ガレスは前にかがみ込み、全力で剣を振り上げようとした。全身が震え、けいれんするまで力を振り絞った。 剣はびくともしなかった。まるで地球の土台を動かそうとしているかのようだった。 ガレスはまだ懸命に試みていた。はたから見てわかるぐらいにうめき声を上げ、叫んだ。 やがて彼は倒れた。 刃は1インチとて動かなかった。 ガレスが床に崩れ落ちた時、ショックに息を呑む音が室内に広がった。顧問が数名助けに駆け寄り、様子をうかがった。ガレスは乱暴を彼らを押しのけた。気まずい思いで彼は立ち上がった。 自尊心を傷つけられ、ガレスは臣民が今自分のことをどう見ているかを確かめようと見渡した。 彼らは既にガレスに背を向け、部屋から退出しようとしていた。その顔に落胆を、自分が彼らの目には失敗としか映っていないことを見てとった。今では全員が、自分が彼らの真の王ではないことを知っている。運命の、選ばれしマッギルではないと。彼は何物でもない、王座を奪ったまた別の王子でしかないと。 ガレスは恥で全身がほてるのを感じた。これほど孤独を感じたことはなかった。子供の頃から夢見てきたことのすべてが嘘で、妄想だったのだ。自分のおとぎ話を信じてきただけだった。 そのことが彼を打ちのめした。 第六章 ガレスは自室の中で歩きながら、剣を持ち上げる儀式の失敗にぼう然として頭が混乱し、その影響について整理しようとしていた。ショックで麻痺したようになっていた。マッギル家の者が七世代にもわたって誰も振り上げられなかった運命の剣。それを試そうとした自分の愚かさが信じられなかった。なぜ、自分が先祖たちよりも優れているだろうと考えたのだろうか?なぜ自分だけは違うと? もっとよくわかっておくべきだった。慎重になり、自分を過大評価するべきではなかった。父の王座を受け継いだことに満足していればよかった。なぜそれをもっと無理に進めようとしたのだろうか? 臣民はもはや自分が選ばれし者でないことを知っている。そのことで彼の支配に傷がつくうえ、恐らく父の死に関して自分に疑いを持つ根拠が増えただろう。皆が自分のことを違う目で見始めていることに気付いていた。まるで自分が生霊で、彼らが次の王を迎える準備をしているかのように。 更にひどいのは、生まれて初めて自分に自信が持てなくなったことだった。今まで、自分の運命をはっきりと見据えてきた。父の後を継ぐ運命にあると確信してきたのだ。統治し、剣を振りかざすものだと。その自信が根底から揺らいだ。今は何も確信できなかった。 そして最悪なことに、剣を持ち上げようとした瞬間に見た父の顔がずっと目に浮かぶのだった。これは父の復讐なのだろうか? 「お見事ね」低く、皮肉な響きを持った声がした。 ガレスは、部屋に誰かいたのかと衝撃を受けて振り向いた。その声で誰かすぐにわかった。長年聞き慣れ、自分がさげすんできた妻の声。 ヘレナだ。 部屋の向こうの隅に立ち、アヘンのパイプを吸いながら自分を観察していた。深く息を吸って止め、ゆっくりと吐き出した。目は充血し、長時間吸い過ぎていることがわかった。 「ここで何をしている?」ガレスが尋ねた。 「ここは私の花嫁時代の部屋よ」彼女が答えた。「ここでは好きなことができるわ。私はあなたの妻でもあり、女王なんですから。忘れないでちょうだい。あなたと同じく私もこの国を支配しているのよ。そして今日あなたが失敗した以上、統治という言葉はあまり厳密には使わないようにするわ」 ガレスは顔が赤くなった。ヘレナはいつでも最も人をさげすむやり方で打ちのめしてくる。しかも一番不都合な時に。ガレスは彼女をどの女よりも軽蔑していた。結婚しようと決めたことが信じられなかった。 「そうなのか?」ガレスは振り向いてヘレナのほうへ向かって行きながら、怒りではらわたが煮えくり返る思いで言った。「お前は私が王であることを忘れている。妻であろうがなかろうが、他の者と同じようにお前を投獄することだってできるのだぞ」 ヘレナは軽蔑したように彼を鼻で笑い、 「それから?」と鋭く言った。「国民にあなたの性的嗜好を疑わせる?策略を練るガレスなら、そうはさせないでしょうね。人が自分のことをどう見るか誰よりも気にする人だもの」 ガレスはヘレナを前にして口をつぐんだ。自分を見透かす方法を心得ているとわかり、心からうとましく思った。彼女の脅しを理解して議論しても良いことはないと悟り、ただこぶしを握り締めて静かに立ち尽くすだけだった。. 「何が望みだ?」ガレスはあわてないように、と自分を制しながらゆっくりと聞いた。「私から何か引き出そうというのでない限りここへは来ないだろう」 ヘレナは乾いた嘲笑を浮かべた。 「私は欲しいものは何でも自分で手に入れるわ。あなたに何か要求しようと思って来たんじゃなくて、言おうと思ったことがあって来たの。剣を振り上げるのに失敗したのを皆が見たでしょう。それで私たちはどうなったかしら?」 「私たち、っていうのはどういう意味だ?」ガレスがヘレナの思惑をいぶかりながら聞いた。 「私がずっと前から知っていたことが、今や国民にもわかったということよ。つまりあなたが選ばれし者なんかじゃなくて、落伍者だってこと。おめでとう。今じゃ正式に知られたわけね」 ガレスが睨み返した。 「父も剣を振りそこなった。それで王として国を立派に治めることができなかったわけじゃない」 「でも王としての威厳には影響があったわ」ヘレナがピシャリと言う。「どんな時にもね」 「私の能力のなさに不満があるなら」ガレスが憤って言う。「ここからいなくなったらどうだ?私など置いて行きたまえ!結婚のまねごとなどやめればよいのだ。私は今や王だ。お前は必要ない」 「そのことを話題にしてくれてよかった」ヘレナが言った。「それがここに来た理由だから。結婚を終わらせて、正式に離婚したいの。好きな人がいるのよ。本物の男性よ。あなたの騎士の一人、戦士で、私が経験したことがないほど、私たちは本気で愛し合っているのよ。この関係を秘密にしておくのはもうやめにして、公にしたいの。そして彼と結婚したいので、離婚してください」 ガレスは衝撃を受けて彼女のほうを見た。胸に短剣を刺されたばかりのように、心に穴を開けられたような気がした。なぜヘレナは公にしなければならないのか?よりによって、なぜ今なのか? もうたくさんだった。自分が弱っているときに、よってたかって蹴られているかのようだった。 それにもかかわらず、ガレスは自分がヘレナに対して深い思いを抱いていたと気づき自分でも驚いた。彼女が離婚を迫ったとき、衝撃を受けたからである。ガレスは気が動転した。意外なことに、自分が離婚を望んでいないことに気付いた。自分から求めたのであれば、それはよかった。だが、ヘレナから切り出された場合は別問題だ。そう簡単に彼女の好きにさせたくはなかった。 まず第一に、離婚が王としての威厳にどう影響するかと考えた。国王が離婚したとなると多くの疑問が生じる。また、自分の意思に反してその騎士に嫉妬を覚えた。自分に面と向かって男性らしさの欠如を持ち出したのも憎らしかった。二人に仕返しをしたかった。 「そうはさせない」ガレスは切り返した。「お前は永遠に私の妻として縛られているのだ。決して自由にはさせない。そしてお前が通じていた騎士にもし出会ったなら、拷問にかけて処刑する」 ヘレナが怒鳴るように言った。 「私はあなたの妻なんかじゃないわ!あなたも私の夫などではない。あなたは男じゃないんですもの。私たちの結婚は初日からひどいものだった。権力のための政略結婚だったのよ。何もかも反吐が出るようなことだった。いつでもね。真の結婚をする私の唯一のチャンスが台無しになったのよ」 怒りが沸騰したヘレナが一息ついた。 「離婚してくれなければ、あなたの正体を王国中にばらすわ。どうするかはあなたが決めて」 そう言うとヘレナはガレスに背を向け、部屋を横切り、開いた扉から出て行った。扉を閉めようともしなかった。 ガレスは石造りの部屋に一人たたずみ、ヘレナの足音がこだまするのを聞いていた。ふるい落とすことのできない寒気を感じていた。すがれる確かなものはもう何もないのだろうか? ガレスは開いたままの扉のほうに目をやり、震えながら立ちすくんでいたが、誰か別の者が入って来るのを見て驚いた。 ヘレナとの会話を、脅しを整理する間もなく、ファースの見慣れた顔が入って来た。申し訳なさそうな表情でためらいがちに部屋に入ってくる彼に、普段の弾む足取りは見られなかった。 「ガレスかい?」ファースは自信なさそうな声で尋ねた。 目を見開いてガレスを見ながら、心苦しい様子でいるのがガレスにもわかった。そのほうが良いんだ、ガレスはそう思った。 ガレスに剣を振り上げるよう仕向けて決心させ、実際よりも偉大な者であると信じ込ませたのはファースなのだから。彼がそそのかさなかったら、どうなっていたかわからない。ガレスは試そうともしなかったかも知れない。 ガレスは激しく怒りながら彼のほうを向いた。やっと自分の怒りを向ける相手を見つけた。そもそも、ファースこそ自分の父を殺した張本人だ。この馬舎の愚かな少年がこの一連の混乱に自分を巻き込んだのだ。今となっては自分はできそこないの、マッギルの後継者の一人となっただけだ。 「お前なんか嫌いだ」ガレスは怒りで煮えくり返った。「お前の言った約束が今ではどうだ?私が剣を振りかざすだろうと言った確信は?」 ファースは緊張に息を呑んだ。言葉もなかった。何も言うことがないのは明らかだ。 「申し訳ありません、陛下」彼が言った。「私が間違っていました」 「お前のすることは間違いばかりだ」ガレスが鋭く言う。 確かにそうだ。考えれば考えるほど、ファースがいかに誤っているかを悟るばかりだ。実際、ファースがいなければ父はまだ生きていただろう。そしてこのような騒ぎに巻き込まれることもなかった。王位の重圧が自分にのしかかることも、すべてがうまくいかなくなることもなかったろう。ガレスは、自分が王になる前、父の存命中に過ごしていた平穏な日々が恋しかった。突然、元の状態をすべて取り戻したい衝動に駆られたが、それは不可能だった。何もかもすべてファースのせいだ。 「ここで何をしている?」ガレスが詰問する。 ガレスは明らかに緊張した様子で咳払いをした。 「えっと、召使たちが話していて・・・噂を聞いたものですから。ご兄弟があちこちで聞きまわっていると、耳に入ってきて。召使たちの働くところで、凶器を見つけるために汚物の落とし樋を探っているのが目撃されたって。父君を刺すのに使った短剣です」 その言葉にガレスは全身が冷たくなり、衝撃と恐怖で凍り付いた。これ以上ひどい日があろうか? 彼は咳払いをした。 「彼らは何を見つけたんだ?」ガレスが尋ねた。喉が渇き、ことばがうまく出てこない。 「わかりません、陛下。何か疑っているということしか」 これ以上深まることなど予想できなかったガレスのファースへの憎しみが一層強くなった。彼のへまさえなければ、凶器をきちんと始末してさえいれば、このような状況に置かれることもなかった。ファースのせいですきができてしまった。 「一度しか言わない」ガレスがファースに詰め寄り、これ以上はないほどの怖い顔で言った。「お前の顔など二度と見たくない。わかったか?私の前に二度と現れるな。お前を遠く離れた場所へ追放する。そしてこの城の敷居を再びまたぐことがあれば、お前を逮捕させる。」 「さあ、行け!」ガレスが叫んだ。 ファースは目に涙をため、振り向いて部屋から出て行った。廊下を駆けていく足音がずっとこだましていた。 ガレスは再び剣と儀式の失敗に思いをめぐらせた。自分で災難の口火を切ってしまったような気がしてならなかった。崖っぷちへと自分で自分を追い込み、ここから先は下降の一途をたどるだけのように感じられた。 父の部屋で、静けさの中に根が生えたように立ち尽くし、震えていた。自分が一体何を始めてしまったのかと考えながら。これほど孤独を感じ、自信を喪失したことはなかった。 これが王になるということなのか? * ガレスは石造りのらせん階段を早足で上り、次の階へ、城の最上階の胸壁へと急いだ。新鮮な空気が必要だった。考える時間と場所が。宮廷、臣民を見渡し、それが自分のものであることを確かめる王国で最高の場所が。悪夢のような一連の出来事があった後もなお、自分がいまだ王であることを確かめるための。 ガレスは従者たちも退け、たった一人で踊り場から踊り場へと、息を切らして走り続けた。一回だけある階に立ち寄り、身をかがめて息をついた。涙が頬を伝った。自分を叱る父の顔が、いたるところで目の前に浮かんだ。 「あなたなんか嫌いだ!」宙に向かってガレスは叫んだ。 嘲けるような笑いを確かに聞いたような気がした。父の声だ。 ガレスはここから逃げたかった。振り返り、走り続けてやがて最上階に着いた。扉から走り出ると、新鮮な夏の空気が顔に当たった。 深呼吸をして息をつき、太陽の光とあたたかい風を浴びた。父の王衣を脱ぎ、地面に投げ捨てた。暑くて、まとっていたくなかった。 胸壁の端に行き、城の壁につかまった。荒い息で宮廷を見下ろした。切れることのない人の波が、城から出て行く。儀式、自分の儀式が終わって帰る者たちだ。彼らの落胆がここからでも感じられた。誰もが小さく見える。皆が自分の支配下にあることに驚くばかりだった。 だが、それはどれくらい続くのだろう? 「王であるというのはおかしなものよ」老人の声がした。 ガレスは振り向いて驚いた。アルゴンがほんの数歩先に立っていた。白い外套と頭巾を身に着け、杖を手にしている。彼は口元に笑みを浮かべてガレスを見た。目は笑っていなかった。輝きを持った目がまっすぐに向けられ、ガレスは追いつめられた。多くを見抜く目だ。 アルゴンに言いたいこと、尋ねたいことはガレスには山ほどあった。だが、剣を振ることに失敗した今、それらの一つたりとも思い出せなかった。 「なぜ教えてくれなかったのだ?」ガレスは絶望を声ににじませながら聞いた。 「私が剣を振りかざすよう運命づけられていないと伝えることもできたであろう。恥を防ぐことも」 「私がなぜそうしなければならない?」アルゴンが尋ねた。 ガレスが睨み付ける。 「そなたは真の王の相談役ではない」ガレスが言った。「父の相談役は務めようとしていた。が、私にはそうしない」 「お父上は真の相談役を持つにふさわしかったからではないかな」アルゴンが答えた。 ガレスは怒りを募らせた。この男が憎くて、非難した。 「そなたは私には必要ない」ガレスが言った。「父が雇った理由はわからないが、宮廷にそなたはもう要らない」 アルゴンが笑った。虚ろで、怖ろしい声だった。 「お父上は私を雇ったりなどしておられない。愚かな者よ」彼が言う。「その先代のお父上もだ。ここにいるのが私の運命なのだ。実際には、私が彼らを雇ったのだ」 突然、アルゴンは一歩踏み出すと、魂を見抜くようにガレスを見た。 「同じことがそなたにも言えるだろうか?」アルゴンは尋ねる。「そなたもここにいるよう運命づけられているのだろうか?」 その言葉はガレスの痛いところを突き、ぞっとさせた。それこそ、自分でも考えていたことだった。これは脅しではないかと思った。 「血によって君臨する者は、血で支配する」アルゴンはそう告げると、素早く背を向け、歩き始めた。 「待ってくれ!」ガレスが大声で言う。アルゴンを行かせたくなかった。答えが欲しい。「それはどういう意味だ?」 ガレスには、自分の統治が長くは続かないというメッセージをアルゴンが伝えているように思えてならなかった。アルゴンが言いたかったのはそのことか、知る必要があった。 ガレスはアルゴンを追った。だが、近づいた瞬間、目の前でアルゴンが消えた。 振り返って周囲を見回したが、何も見えなかった。どこかで虚ろな笑い声が響くだけだった。 「アルゴン!」ガレスは呼んだ。 もう一度振り返り、天を仰いだ。そして片膝をつき、頭をのけぞらせて甲高く叫んだ。 「アルゴン!」 第七章 エレックは大公、ブラント、そして数十名の大公の側近たちと並んで、サバリアの町の曲がりくねった道を進んだ。一行が召使の少女の家へと向かう間、群衆が溢れ出てきた。エレックが少女にすぐにでも会いたいと申し出て、大公が個人的に案内をしたのだった。大公が行くところにはどこにでも人々がついていった。エレックは膨らみ続ける側近の一団を見回し、少女のところへ大勢の人間を従えて行くことになり困惑していた。 初めて彼女を見て以来、エレックは他のことが考えられなかった。この少女は一体誰なのだろう、と彼は思った。気高く見えるにもかかわらず、大公の屋敷で召使として働いている。なぜ自分からあんなにあわてて逃げたのだろう?長年、王族の女性たちにもすべて出会いながら、この少女だけが自分の心をとらえたのはなぜだろう? これまで王族たちに囲まれて生きてきて、自分も王の息子であるため、他の王族も一瞬にしてそうと見分けることができた。そして彼女を見つけた瞬間、今よりもずっと高い身分の者だと感じ取ったのだった。彼女が誰なのか、どこから来たのか、ここで何をしているのか知りたくて好奇心でうずうずしていた。もう一度この目で見て、自分が想像しているだけなのか、再び同じ感覚を持つのか、確かめる必要があった。 「召使たちは、少女が市の郊外に住んでいると教えてくれました」大公が歩きながら説明する。一行が進むのを、道の両側で人々がよろい戸を開けて見ていた。大公と側近たちが普通の道に現れたことに驚いた様子だった。 「見たところ、彼女は宿屋の主人の召使のようです。出自、どこから来たかは誰にもわかりません。ある日この市にやって来て、宿屋で年季奉公に入ったということしかわからないのです。彼女の過去は謎のようです」 一行はまた別の横道に曲がった。進むにつれ、敷石は一層歪み、小さな家々は密集してどんどん傾いたものになっていく。大公は咳払いをした。 「私は特別な行事のときだけ彼女を召使として雇いました。静かで人付き合いを避けています。誰も彼女のことはあまりよく知らないんですよ、エレック」大公はやがてエレックのほうに向き直り、その手首に手を置いて言った。「本当によろしいのですか?誰であったとしても、この女性はただの平民です。あなたには王国のどの女性でも選ぶことができるのですよ」 エレックは同様の真剣さで大公を見つめた。 「私はこの少女にもう一度会わねばなりません。誰であっても構いません」 大公は賛成しかねる様子で首を振った。一行は歩き続け、道を何度も曲がり、狭く曲がりくねった路地を通って行った。サバリアのこの一角は更にみすぼらしい様相を呈してきた。道端には酔っ払いが溢れ、汚いものが散らかり、鶏、野良犬がそこらじゅうを歩き回っていた。酒場を幾つも通り過ぎ、常連客の叫びが外に響く。一行の前で何人もの酔っ払いがよろめいていた。日没とともに、道にはたいまつがともされた。 「大公に道を開けるのだ!」侍従長が叫びながら前に走り出て、酔っ払いを脇に押しのけた。道端ではどこも、いかがわしい者たちが道を開けて、大公がエレックを連れて通り過ぎて行くのを驚いて見守っていた。 一行はついに小さい、粗末な宿屋に到着した。しっくい造りの建物で、スレート葺きの屋根が傾斜している。下の酒場には50名ほどの客を、上の階では数名の宿泊客を収容できるようだ。 正面の扉は歪み、窓は一枚割れている。入口のランプは曲がって、たいまつはろうが減って点滅していた。扉の前で一行が止まった時、酔っ払いの叫び声が窓から溢れていた。 あのような素晴らしい少女がなぜこのような場所で働いているのだろうか? エレックは不思議に思い、中から漏れてくる叫び声ややじを聞いて怖ろしくなった。彼女がこのような場所で屈辱を耐え忍ばなければならないことを考えると心が痛んだ。 これは間違っている、 エレックはそう思い、彼女を救おうと決心した。 「これ以上ひどいところはないような場所に来て花嫁を選ぼうとなさるのはなぜですか?」大公がエレックのほうを向いて尋ねた。 ブラントも彼を見た。 「これが最後のチャンスだ」ブラントが言った。「城に戻れば王家の血を引いた女性たちが大勢待っているのだぞ」 だがエレックは首を振った。決心が固かった。 「扉を開けよ」エレックが命令した。 大公の家来の一人が走り出て、扉を強く引いて開けた。気の抜けたエールの匂いが漂ってきて、家来はたじろいだ。 中では酔っ払いたちがバーにかがみ込むか木のテーブルに腰かけるかして、大声で叫んだり、互いに押し合いへし合いしては笑ったり、野次を飛ばしたりしていた。腹が出て、ひげは剃らず、服も洗っていない。がさつな人々であることはエレックにもすぐにわかった。彼らは戦士ではない。 エレックは中に数歩入って彼女の姿を探した。あのような女性がこんなところで働くなど想像できなかった。違う場所に来たのではないかと思った。 「すみません、ある女性を探しているのですが。」エレックはそばにいた男に尋ねた。腹が出てひげも剃っていない、背が高くて恰幅の良い男だ。 「で、あんたは?」男はふざけて言った。「来る場所を間違えたんじゃないか!ここは売春宿じゃない。通りの向こう側にはあるがな。みんなぽっちゃりして良い女らしいぜ!」 男はエレックに向かって大声で笑い始めた。仲間も数人それに加わった。 「売春宿を探しているのではない。」エレックはしらけた様子で答えた。「ここで働いている女性だ」 「じゃあ、宿屋の召使のことだろう。」別の大柄な酔っ払いが言った。「多分、奥のどこかで床掃除でもしてるよ。うまくいかねえな、あっしの膝にでも座っててくれたら良いのにな!」 男たちは皆、自分たちの冗談に盛り上がって大声で笑った。エレックは想像して顔が赤くなった。恥ずかしくなったのだった。こんな者たちに彼女が仕えなければならないとは、エレックには考えたくもない屈辱だった。 「それで、お前さんは?」別の声がした。 誰よりも太っている男が前に進み出た。濃い色のあごひげと目、広い顎を持ち、しかめっ面をして、みすぼらしい男たちを数名従えている。脂肪は少なく筋肉質で、明らかに縄張りを示すかのように、威嚇的にエレックに近づいた。 「私の召使の少女を盗もうとしているのかね?」と詰問する。「そういうことなら表に出な!」 男は一歩前に出て、エレックをつかもうと手を伸ばした。 だが、長年の訓練で鍛え上げられている、王国で最も偉大な騎士エレックは、この男の想像をはるかにしのぐ反射神経の持ち主だった。男の手がエレックに触れた瞬間、エレックは行動に移した。男の手首をつかむと電光石火のごとく相手を回転させ、シャツの背をつかんで部屋の反対側まで押しやった。 大男は砲弾のように飛んで行き、数名の他の男たちも道連れにして、全員がボーリングのピンのように狭い部屋の床に倒れた。 店内がすっかり静まり返った。誰もが動きを止めて見ていた。 「戦え!戦え!」男たちが唱える。 宿屋の主人はぼう然として足がよろめき、叫びながらエレックに突進してきた。 今度はエレックも待ってはいない。攻撃に応戦すべく前に進み出て、腕を上げ、相手の顔にまっすぐ肘鉄をくらわせた。鼻がへし折れた。 彼は後ろによろめき、床にうつ伏せに倒れた。 エレックは前に出て、その大きさをものともせず相手をつかみ上げて頭の上に持ち上げ、数歩前進してから投げ飛ばした。男は宙を飛び、店内の半分の人間も共倒れとなった。 誰もが凍り付いた。野次も止んで、すっかり静かになり、誰か特別な者がここに来たのだとわかったようだった。だがバーテンダーが、突然ガラスの瓶を頭の上に持ち上げ、エレック目がけて走って来た。 エレックはそれを見て既に自分の剣に手をかけていた。剣を引く前に隣にいた友人のブラントが前に出てベルトから短剣を抜き、その切っ先をバーテンダーの喉に突き付けた。 バーテンダーは正にそこに向かって来て、止まって凍り付いた。短剣が彼の皮膚を突き破るところだった。恐怖に目を見開き、冷や汗をかいて、瓶を宙にかざしながら止まっていた。周囲はピンが落ちる音さえ聞こえそうなほど静まり返った。 「瓶を離せ」ブラントが命令する。 バーテンダーが言われたとおりにすると、瓶が床に落ちて割れた。 エレックが金属音を響かせて剣を抜き、床でうなっている宿屋の主人のところに歩み寄ると、剣を喉に突き付けた。 「一度だけしか言わない。」エレックが言った。「この者たちを店からすべて退去させなさい。今すぐにだ。あの女性と二人きりにしてほしい」 「大公だ!」誰かが叫んだ。 全員が振り向き、やっと、家来たちに囲まれて入口のそばに立っている大公の存在に気付いた。皆が帽子を取り、お辞儀をした。 「私が話を終えるまでに店を空にしないと」大公が告げた。「全員を直ちに投獄する」 店内が狂乱状態になり、男たち全員が店を明け渡す大公のそばを通り過ぎ、正面のドアから外に出ようとした。飲みかけのエールの瓶もそのままだった。 「お前もだ」ブラントはバーテンダーに向かってそう言うと、短剣を下げ、彼の髪をつかんでドアのほうへ押しやった。 ほんの少し前まで騒々しかった店内が、今はエレック、ブラント、大公と数十名の側近たちを除いて誰もいなくなり、静かになった。背後で音を立てて扉を閉めた。 エレックは床に座って今もぼう然と鼻の血をぬぐっている宿屋の主人に向き直った。 エレックは彼のシャツをつかみ、両手で彼を立ち上がらせて、空いたベンチの一つに座らせた。 「今夜一晩の商売をあんたは台無しにしたな。」主人は哀れな声を出した。「このつけは払ってもらうよ」 大公が歩み出て彼を手の甲で叩いた。 「この方に手を出そうものなら、お前を死刑に処することもできるのだぞ。」大公が厳しく言った。「この方がどなたか存じ上げないのか?国王の最高の騎士、シルバーのチャンピオン、エレック様だぞ。その気になれば、この方がお前を今この場で殺すこともできる」 宿屋の主人はエレックを見上げ、初めて本当の恐怖が彼の顔をよぎった。座ったまま震えそうだった。 「まったく存じ上げませんでした。あなた様がおっしゃいませんでしたので」 「彼女はどこだ?」エレックがもどかしげに尋ねた。 「奥で台所の掃除をしております。あの娘とお会いになりたいっていうのは一体どういうことなんで?何かあなた様のものを盗んだりしたんでしょうか?あの娘はただの年季奉公の召使ですが」 エレックは短剣を抜き、男の喉に突き付けた。 「彼女を今度召使と呼んだら」エレックが警告する。「私がお前の喉をかき切るぞ。わかったな?」男の皮膚に刃を当てながらエレックがきつく言った。 男は目に涙をためて、ゆっくりと頷いた。 「彼女をここに連れて来なさい。急いで」エレックはそう命じ、彼を引っ張って立ち上がらせ、体を押した。男は店内へ、そして奥の扉へと飛ばされた。 宿屋の主人が行ってしまうと、扉の向こう側から鍋のぶつかる音や抑えた怒鳴り声が聞こえた。その後すぐに扉が開き、数人の女性たちが出てきた。皆、台所の油だらけのぼろ布のドレスやスモックを身に着け、帽子をかぶっている。 六十代の年配の女性が三人いた。エレックは、自分が誰のことを言っているのかこの男はわかっているのだろうか、といぶかった。 その時、彼女が出てきた。エレックは心臓が止まりそうだった。 息ができないほどだった。この女性だ。 油のしみがついたエプロンを着け、目を上げるのが恥ずかしい様子で顔を下に向けたままだ。髪は結んで布で覆っている。頬には泥がこびりついているが、それでもエレックは彼女にぞっこんだった。皮膚は若々しく完璧な美しさで、頬が高く、顎も彫刻のようだ。鼻にはそばかすがあり、唇が厚い。額は広く、威厳がある。そして美しいブロンドの髪が帽子からあふれ出ていた。 目を上げて一瞬だけ彼の方を見た。大きな、美しいアーモンド形の緑色の瞳は光で、澄んだ青へと変化し、またもとの色へ戻った。エレックはその場にくぎ付けになった。最初に会った時よりも一層心を奪われていることに自分でも驚いた。 彼女の後ろでは、宿屋の主人が鼻の血を今も拭いながら、しかめっ面で出てきた。少女は年配の女性たちに囲まれて、エレックのほうに向かい恐る恐る前に進み出た。近くまで来ると膝を曲げてお辞儀した。エレックは身を起して少女の前に立ち、大公の側近たちもそれに従った。 「ご主人様」少女は優しく、穏やかな声をそう言い、エレックの心を満たした。「私がなぜご機嫌を損ねてしまったのかお教えください。自分ではわかりませんが、大公閣下のお屋敷に行くために私のしたことが何であれ、申し訳ございませんでした」 エレックは微笑んだ。彼女の言葉づかい、声、どれも気分を回復させるような気がした。話すのをやめてほしくなかった。 エレックは手を伸ばして彼女の顎に触れ、その優しい目が自分の目と合うよう顔を上げさせた。その目に見入ると彼の心臓は高鳴った。まるで海の青さに溺れてしまうようだった。 「あなたは怒らせるようなことは何もしていません。あなたには人を怒らせるようなことはできないと思います。ここへは怒りではなく、あなたを思う気持ちのために来ました。あなたに会った時から、他のことが考えられなくなってしまいました」 少女は狼狽して、瞬きを何度もしながらすぐに目を床に落としてしまった。手をねじり、圧倒され緊張した様子だった。このようなことに慣れていないのが明らかだ。 「お願いです、教えてください。あなたのお名前は何と言うのですか?」 「アリステアです」少女はつつましく答えた。 「アリステア」エレックは感動しながら繰り返した。これまで聞いたなかで最も美しい名前だと思った。 「ですが、なぜそんなことをお知りになりたいのかわかりません」彼女が床を見つめながら小さな声で聞いた。「あなた様は貴族でいらっしゃいますが、私はただの召使です」 「正確に言うと、その娘は私の召使だ」宿屋の主人は進み出て意地悪くそう言った。「私のところに年季奉公に入ったんですよ。何年か前に契約を交わしました。約束は7年です。それと引き換えに、私が食べ物と住む場所を世話してやっているんです。3年目に入ったところですよ。ですから、こんなこと全部時間の無駄です。この娘は私のものです。私の所有です。連れて行くことなんかできませんよ。おわかりいただけましたか?」 エレックはこれほど人を憎んだことはないくらい、この宿屋の主人に対して憎しみを抱いた。剣を抜き、心臓を突き刺して始末してしまいたい思いがよぎった。だが、いかにそうされて当然の男であっても、エレックは王の法律を破る気にはなれなかった。自分の行動は国王に影響を及ぼすからだ。 「王の法律は王の法律だ」エレックは毅然として男に言った。「それを破ろうとは思わない。それだけは伝えた。明日はトーナメントが始まる。私は他の男と同じく、花嫁を選ぶ権利がある。ここで今、私がアリステアを選ぶことを知らせておく」 部屋中に息を呑む声が広がった。皆が衝撃に互いの顔を見合わせた。 「それは」エレックが付け加えて言った。「彼女が承諾すればだが」 エレックはアリステアがずっと下を向いたままなのを見て、胸が高鳴った。彼女の頬が赤らんでいるのがわかった。 「承諾してくださいますか?」エレックが尋ねた。 店内が静まり返った。 「ご主人様」彼女が静かに言った。「あなた様は私が誰なのか、どこから来たのか、何もご存じありません。そして、私はそうしたことをお話しできないのです」 エレックが不思議そうな顔をして見つめ返した。 「なぜ話せないのですか?」 「ここへ到着してから誰にも話しておりません。私は誓いを立てたのです」 「それは一体なぜなのですか?」エレックは興味をそそられ、問いただした。 アリステアは黙って下を見ているだけだった。 「それは本当です」女中の一人が口を差し挟んだ。「この人は自分が誰なのか話したことがないんですよ。なぜここにいるのかも。話すのを拒むんです。何年も聞こうとしているんですがね」 エレックは非常に不可解な気がした。だが彼女の神秘性が一層深まっただけだった。 「今、誰だかわからないのであれば、知らなくてよいです」エレックが言った。「私はあなたの誓いを尊重します。ですが、そのことで私の気持ちが変わることはありません。あなたが誰であろうと、このトーナメントに勝った時は私はあなたを選びます。王国中のすべての女性のうちからあなたをです。もう一度伺います。受けてくださいますか?」 アリステアは床に目を落としたままだった。そしてエレックの目の前で、彼女の頬を涙が伝った。 突然、アリステアは振り向いて部屋から走って出て行き、背後の扉を閉めた。 エレックは他の者たちともども、驚きに言葉をなくして立ちすくんだ。彼女の反応をどう解釈したらよいのかわからなかった。 「これであなた様も私も時間を無駄にしたことがわかりましたね。」宿屋の主人が言った。「あの娘はノーと言った。ですからもう出て行ってくださいよ」 エレックはしかめっ面を返した。 「ノーと言ったわけじゃない」ブラントが口をはさんだ。「返事をしなかっただけだ」 「時間をかける権利がある」エレックは彼女を弁護した。「考えるべきことはたくさんあるのだから。私のことも知らないわけだし」 エレックは何をすべきか、その場で熟考した。 「私は今晩ここに泊まることにする。」エレックは最終的にそう言った。「ここに部屋を取ってくれ。彼女の部屋から離れた廊下の奥に。朝になったら、トーナメント前にもう一度尋ねる。もし承諾してくれれば、そして私が勝てば、彼女は私の花嫁になる。もしそうなれば、奉公人の身請けをする。彼女は私と共にここを離れることになろう」 宿屋の主人が自分の宿にエレックを泊めたくないのは明らかだったが、何も言おうとはしなかった。振り返って扉を後ろ手に閉め、急ぎ足で出て行った。 「ここにお泊りになるというのは確かなのですか?」大公が尋ねた。「私どもと共に城に戻りましょう」 エレックは重々しく頷き返した。 「これまでで、これほど本気になったことはありません」 第八章 ソアは宙を飛んで落下し、火の海の荒れ狂う波間に頭からすごい勢いで落ちた。水面下に入って海水に浸かると、その熱さに驚いた。 水面下でソアは短い間だけ目を開け、そうしなければ良かったと思った。不気味な顔をした、奇妙で醜いあらゆる海の生き物たちを一瞬目にした。この海には生き物が溢れている。安全なボートに戻るまで、それらが攻撃してこないことを祈った。 ソアはあえぎながら水面に顔を出し、すぐに溺れている少年を探した。ぎりぎり間に合って彼を見つけることができた。ばたばたと腕を振り回しながら沈もうとしていた。あと数秒で本当に溺れるところだった。 ソアは手を伸ばして少年の首を後ろからつかみ、顔を水面から出して一緒に泳ぎ始めた。ソアはすすり泣く声を聞き、振り返ると、そこにクローンがいるのを見て驚いた。自分の後を追って飛び込んだに違いない。自分の隣で泳ぎ、哀れな声を出しながら水をかいてソアに近づいてくる。クローンが危険にさらされているのを見て彼は気が滅入った。だが手がふさがっていて、なすすべがない。 奇妙な生き物たちが周りで顔を出しては引っ込める、赤く渦巻く水中にあって、ソアは周囲をなるべく見ないようにしていた。4本の腕と2つの頭部を持つ紫色の醜い生き物が近くで顔を出し、ソアに向かって鋭い声を上げると、潜って行った。ソアは縮み上がった。 振り向くと20ヤードほど先にボートが見えた。少年を引っ張りながら、片腕と両足を使って必死にボートに向かって泳いだ。少年は叫びながらばたばたともがき、ソアは自分も一緒に沈んでしまうのでは、と恐れた。 「じっとして!」ソアは少年が聞いてくれることを願いながら大声で言った。 やっと聞き届けてくれたのでソアがほっとしたのもつかの間、水しぶきが聞こえたため反対側を向くと、すぐ右に別の生き物が顔を出していた。黄色く、四角い頭と4本の足を持つ、小さな生き物だ。うなり、震えながらソアめがけて泳いでくる。海に棲むガラガラヘビのように見えた。頭は四角い。近づくにつれ、ソアはかまれることを覚悟し、緊張した。だが、生き物は突然口を大きく開け、彼に向かって海水を吐き出した。 ソアは目から水を出そうと瞬きした。 生き物は二人の周りをぐるぐると泳ぎ続ける。ソアはもっと速く泳いで逃げようと頑張った。 ボートに向かって進み、近づいてきたところで、反対側にまた別の生き物が現れた。細長く、オレンジ色で、口元にはさみが2つ、小さな脚が数十本ある。長い尾をあらゆる方向に鞭のように動かしていた。直立のロブスターのように見える。水生昆虫のように、水際に沿ってすそを広げ、ブンブンと音を立ててソアに近づいてくる。横を向いては尾を鞭のように動かし、ソアの腕に当たって、刺すような痛みにソアは悲鳴を上げた。 生き物は音を立てて行っては戻り、何度も何度も鞭打ってくる。ソアは剣を抜いて攻撃できることを願ったが、片手しか空いていない。そしてそれは泳ぐのに必要だった。 すぐそばを泳いでいたクローンが振り向いて生き物にうなった。毛が逆立つような声だった。クローンは恐れることなく泳いでいき、威嚇した。生き物は水中に退散した。ソアはほっとして息をついた。だが、突然生き物はソアの反対側に再び現れ、彼を鞭打った。クローンが追い回し、噛みついて捕まえようとしたが、そのたびに逃してしまう。 ソアは賢明に泳いだ。この状況から脱するには、海から上がるしかない。永遠に続くかと思えるほど長く、これほどの力を込めたことはないほど賢明に泳ぎ、波で大きく揺れるボートに近づいた。その間、リージョンの年長の少年たちが二人、彼を助けようと待っていてくれた。自分やクラスメートたちが話したことさえなかったメンバーだ。屈んで彼のほうへ手を差し伸べてくれた。 ソアは少年をボートに向かって持ち上げ、先に助けた。少年たちが彼の腕を抱え、引き上げた。 ソアは次に手を伸ばしてクローンの腹部を持ち、海上からボートに放り上げた。クローンは大声を上げ、ずぶ濡れで震えながら、木製のボートの上で四肢を使ってひっかいたり滑ったりした。ボートの端から端まで、濡れた床の上を滑って行った。そして素早く立ち上がり、向きを変えると船のへりに走り寄り、ソアを探した。海を見下ろしながら甲高く叫んだ。 ソアは手を伸ばして少年たちの一人の手をつかんだ。正にボートに乗り込もうとしていたその時、突然何か力強い筋肉のようなものが足首と腿をつかむのを感じた。振り向いて見下ろすと、ライムグリーン色をしたイカのような生き物が自分の脚に足を巻き付けているのが見え、心臓が凍り付いた。 針が肉に刺さるのを感じ、痛みに悲鳴を上げた。 何か素早く行動を起こさないと終わりだ、とソアは思った。空いたほうの手でベルトに手を伸ばし、短剣を抜いて屈み込んで切りつけた。だが生き物の足は肉厚で、短剣では刺すことさえできない。 これが相手を怒らせた。生き物は、緑色で目がなく、長い首の上に重なり合った二重の顎を持つ頭部を突然現わした。そしてカミソリのように鋭い歯をむき出してソアのほうへ乗り出した。ソアは脚から血の気が失せていくのを感じ、すぐになんとかしなければと悟った。年長の少年たちが必死に自分をつかんでいてくれようとするのだが、ソアの手は滑り、海に落ちようとしていた。 クローンが甲高い声を上げ続ける。毛が逆立ち、今にも海に飛び込みそうなくらい乗り出している。だが、クローンでさえこの生き物に攻撃しても無意味だとわかっていたに違いない。 年長の少年たちの一人が前に出て叫んだ。 「頭を下げろ!」 ソアが頭を引っ込めた時、少年が槍を投げた。音を立てて宙を飛んだが、的を外れ、敵を傷つけることなく海に沈んだ。生き物はひどく痩せていて、またすばしこかった。 突然、クローンがボートから海に飛び込んだ。口を開けたまま生き物に着地し、その鋭い歯で首の後ろ側に噛みついた。クローンはしっかりと噛みついたまま、生き物を左右に揺らし、決して離さない。 だが、この戦いに勝ち目はなかった。生き物の皮膚は非常に硬く、肉も厚かった。相手はクローンを振り回し、海に放り投げた。その間、ソアの脚をつかむ力を強めた。まるで万力のようだった。ソアは酸素が不足してきているのを感じた。生き物の足は焼けるようで、脚が体から引き裂かれるのではと思った。 最後に必死の努力で、ソアは少年の手を離したのと同時に、揺れながらベルトの短刀に手をかけた。 だが、それをつかむのが遅すぎた。滑って体が回転し、海中に頭から落ちた。 ソアはボートから遠く引き離されていくのを感じた。生き物が自分を海へと引きずっていく。後ろに引っ張られ、そのスピードが増していく。力なく手を伸ばしてもボートは目の前から消えて行った。最後に気付いたのはそして水面から下へ、火の海の底に向かって引きずられていくのを感じたことだった。 第九章 グウェンドリンは父のマッギル王の横で、広い草原を走っていた。まだ小さく、10歳ぐらいだろうか、そして父もまだかなり若い。顎ひげは短く、後に出てくる白髪も見当たらない。皮膚にはしわがなく、若々しく輝いている。娘の手を取り、野を駆け巡りながら、彼は幸せで心配事もなく、思い切り笑っていた。これが彼女の知る、彼女が覚えている父である。 彼は娘を抱き上げて肩にかつぎ上げ、何度も回した。笑い声が大きくなり、グウェンは興奮して笑い続ける。父の腕の中でグウェンは安心感に包まれていた。父と一緒の時が永遠に続くことを願った。 だが、父が彼女を降ろした時、不思議なことが起きた。太陽が降り注ぐ午後が、突然たそがれ時に変わった。グウェンが地面に足をつけた瞬間、二人は花咲く草原ではなく泥の中にいた。足首までつかって。父は今、彼女の足下から数フィート先の土の中に仰向けに横たわっている。年を経て、ずっと年取って。年を取り過ぎて。そして動けなくなっている。もっと遠くには、土の中に彼の王冠が輝いている。 「グウェンドリンや」喘ぎながら言った。「娘よ、助けておくれ」 泥から手を上げて、必死に彼女に手を伸ばした。 グウェンは父を助けたい衝動に駆られ、父のもとへ行き、手をつかもうとした。しかし、彼女の足は動かない。見下ろすと、泥が自分の周りで固まっていくのが見えた。乾いてひび割れている。壊して足を自由にしようと何度も動いてみた。 グウェンは瞬きをした。彼女は宮廷の胸壁の上に立ち、宮廷を見下ろしている。何かおかしい。下には普段の輝きも祝いの催しも見当たらない。墓地が広がっているだけだ。かつて輝くばかりの宮廷が存在した場所には、今や見渡す限り、新しく建てられた墓地が広がっている。 足音が聞こえた。振り返ると黒いマントと頭巾を着けた暗殺者が自分に近づいてくるのが見え、彼女の心臓は止まりそうだった。片目を失くし、眼窩にギザギザの分厚い傷を持つ不気味な顔を頭巾を取って見せながら、こちらに向かって疾走してくる。唸りながら片手を上げ、柄が赤く輝く、きらめく短剣を振り上げている。 その動きはあまりに速く、グウェンの動きは間に合わなかった。彼が短剣を思い切り振りおろした時、彼女は殺されると思い、屈んだ。 突然それが、顔の数インチ手前で止まった。目を開けると、父の遺体が立って男の手首を宙でつかんでいるのが見えた。父は男が短剣を落とすまでその手をねじり、男を肩の上に持ち上げると、胸壁から投げ落とした。グウェンは男が端から落ちて行くときの悲鳴を聞いた。 父は振り向いて彼女を見つめた。そして娘の肩をその腐敗しつつある手でしっかりとつかみ、厳しい表情を見せた。 「ここはお前にとって安全な場所ではない」父が警告した。「安全ではないのだ!」父は叫んだ。その手は埋まるほど彼女の肩をきつくつかみ、グウェンが悲鳴を上げた。 グウェンは叫びながら目を覚ました。ベッドに身を起こし、襲撃者がいるのでは、と部屋の中を見回した。 だが、そこにあるのは沈黙だけだった。夜明け前の重苦しい静けさだ。 汗をかき、荒い息で彼女はベッドから飛び降りた。レースの夜着をまとい、室内を歩いた。小さな、石造りの洗面台に行き、何度も顔を洗った。壁にもたれかかり、暑い夏の朝に裸足で冷たい石の感触を味わいながら、心を鎮めようとした。 夢はあまりにも現実的だった。ただの夢ではないと感じた。父からの警告、メッセージであったと。宮廷を離れる切迫した必要を感じた。今すぐに経ち、二度と戻らない。 それが不可能だということはわかっていた。よい考えが浮かぶよう、気持ちを静めなくてはならない。しかし、瞬きをするたびに父の顔が目に浮かび、父の警告を感じるのだった。夢のことを忘れるため何かしなくては。 グウェンが外を見やると、最初の太陽がちょうど昇るところだった。平静を取り戻すことのできる唯一の場所を思いついた。王の川。そうだ、行かなくては。 * グウェンドリンは、凍るように冷たい王の川の泉に、鼻をつまみ、水中に頭を沈め、何度も浸かった。上流の泉にひっそりとたたずむ、岩が削られてできた小さな天然のプールに腰を下ろした。子供のころに見つけ、よく通った場所だ。しばらく水の中に頭を沈めたままで過ごした。髪や頭に冷たい水の流れを、何も身に着けていない身体が洗い清められるのを感じた。 ある日グウェンが見つけたこの人里離れた場所は、高い山中にあって木立に遮られた小さな平地で、ここでは川の流れが緩やかになり、深く静かな水たまりを形作っていた。 上からは川の水が滴り落ちてきて、下に少しずつ流れていくのだが、この平地にわずかの流れが留まるのだった。水たまりは深く、岩は滑らかだった。奥まった場所のため、裸でも思い切り水浴びを楽しむことができた。夏には、夜明けに心を清らかにするため、毎朝のようにここに来たものだった。今までにもよくあったが、悪夢がまとわりつく今日のような日は特に、彼女が唯一慰められる場所だった。 グウェンには、あれがただの夢だったのか、それともそれ以上のものなのかわからなかった。夢がメッセージや前兆となる時、どうしてそうだと彼女にわかるだろう?自分の心がいたずらをしているだけなのか、それとも行動を起こすチャンスを与えられたのか、どうしたらわかるのか? グウェンドリンは起き上がり、あたたかな夏の朝の空気を吸い、周囲の木々に止まった小鳥たちのさえずりを聞いた。水中の天然の岩棚に座って、首まで水につかりながら後ろの岩にもたれかかって考えた。手ですくった水を顔にかけ、それからストロベリー色の長い髪に手を滑らせた。澄み切った水の表面に、空や既に昇りかかった二つ目の太陽、水の上で弧を描いている木々、そして自分の顔が映っているのが見えた。水に映し出された青く輝くアーモンド形の目が、波打ちながら自分の姿を見返していた。その中にグウェンは父の面影を見ることができた。目をそらし、また夢のことを考えた。 父の暗殺があった宮廷に留まるのは危険だと自分でもわかっている。スパイたち、陰謀、そして特に国王がガレスとあっては。兄は予測がつかない。執念深く、偏執狂のようだ。そして非常に嫉妬深い。誰もかも脅威とみなす。特に自分のことを。どんなことでも起こりかねない。ここにいたら自分は安全ではないとわかっていた。誰にとってもそうだ。 だが、彼女は逃げ出すような人間ではなかった。父を殺した者が誰なのか、確実に知る必要があった。もしそれがガレスなら、彼を罰するまでは逃げることなどできなかった。グウェンは、犯人が誰であれ捕まるまで父の魂が安らかに眠ることができないのを知っていた。父は一生涯、正義を呼び掛けていた。他の誰でもない父こそ、その死において正義が行われるにふさわしい。 グウェンは、ゴドフリーと一緒にステッフェンに会ったことを再び思い起こした。彼が何か隠していることを確信し、それが何なのか考えた。プライベートの時間になら明かしてくれるかも知れないという気がしていた。 でももしそうしてくれなかったら?グウェンは父の殺人者を早く見つけなければと焦っていたが、他にどこを当たればよいのか見当がつかなかった。 グウェンドリンは水中の腰かけから立ち上がり、裸のまま岸に上がり、朝の空気に震えながら木の陰に隠れた。そしていつも通り、枝にかけてあるタオルを取ろうと手を伸ばした。 だが、その時タオルがないことに気付き、ショックを受けた。裸で濡れたまま、訳がわからずにいた。いつもと同じようにそこにタオルをかけたのは確かだった。 Конец ознакомительного фрагмента. Текст предоставлен ООО «ЛитРес». Прочитайте эту книгу целиком, купив полную легальную версию (https://www.litres.ru/pages/biblio_book/?art=43698143&lfrom=334617187) на ЛитРес. Безопасно оплатить книгу можно банковской картой Visa, MasterCard, Maestro, со счета мобильного телефона, с платежного терминала, в салоне МТС или Связной, через PayPal, WebMoney, Яндекс.Деньги, QIWI Кошелек, бонусными картами или другим удобным Вам способом.
КУПИТЬ И СКАЧАТЬ ЗА: 299.00 руб.